セクハラにも避難訓練が必要だ

小さなセクハラや性差別を見逃した先に、フェミサイドやレイプがある。
長田杏奈 2021.09.09
誰でも

 こんにちは。涼しくなって足元が冷えるので、今年もポーランド製の毛糸の靴下を出してきました。鳥ちゃん柄の靴もスリッパも履けなくなるほど分厚い靴下。目下ハマっている温かい"飲む出汁"をすすりながら、身も心もゾッとするセクハラのことを書いてみようと思う。

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ニュースレター「なんかなんか通信」は、美容ライターの長田杏奈が、コスメや気になるトピックについてお届けする、Podcast「なんかなんかコスメ」連動のニュースレターです。週に3、4通を目安に、女友達に手紙を書く気持ちでしたためて投函します。

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「これってセクハラなのか…?セクハラだったのか…?」

 少し前に、Podcast『わたしたちのスリープオーバー』にお邪魔しました。元『She is』現『me & you』の野村由芽さんと竹中万季さんがナビゲートする、パジャマパーティー感覚で性や身体のことを語り合うプログラム。私の出演回のテーマは「これってセクハラなのか…?セクハラだったのか…?」。事前にとったアンケートでは、98%のリスナーが「これってセクハラなのか…?セクハラだったのか…?」という経験があると回答!

 セクハラをしてくる人って、「これってセクハラに当たっちゃうかな〜?」とかチラチラジャブかましたり、「下心はなくて親睦を深めようとしただけなのに。自意識過剰では?」みたいな自己弁護を繰り出しがちだから、「気にし過ぎかな?」っていう気後れにつけ込んでくるんだよね……。ちなみに、セクハラかどうかが争われた裁判では、加害側の悪気とかどういうつもりだったかはあまり重要じゃなくて、被害者がどう感じたかに重きを置いた上で社会通念を加味した判例が主流です。ハラスメントしておきながら、ハラスメントに当たるかどうかを決められると思ったら、大間違いだからなーー! だから是非、「これって……」という違和感を大切にしかるべき窓口に相談してほしいです。会社の窓口がある人は信頼できそうだったらとりあえずそこへ。また、↓のツイートから相談窓口をいくつかつなげているのでチェックしてね。

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流行語大賞から30年。「セクハラ」の軽重

 「セクシュアル・ハラスメント」という言葉が日本に紹介されたのは、1989年日本初のセクハラ裁判でのこと。当時は性的な嫌がらせが当たり前に蔓延し過ぎていて、「どうしてこれが性差別なの?」と疑問視する女性弁護士すらいたほど。裁判所にどうにかして重大な性差別だと伝えたかった原告側代理人チーム。知恵を絞った結果、欧米で既に性差別として認められていた「セクシュアル・ハラスメント」という言葉を使うことにしたんだそう。

 裁判に注目が集まる一方、「セクシュアル・ハラスメント」という言葉は、男性週刊誌などで「セクハラ」と略され一人歩き。「挑発的な格好を女性がするのは、内なるホルモンのなせるわざ。そういう格好をしておいて、ハラスメントだと大騒ぎするのは節度の問題」「モテない女が騒いでいるだけ」など揶揄されました。そして、「セクハラ」はその年の流行語大賞に……。

 2021年のいま、「それってセクハラじゃないですか?」とカジュアルに牽制できる恩恵は感じつつ、それ「セクシュアル・ハラスメント」ではなく、「セクシュアル・アサルト」な!というケースが含まれてしまっている問題も。例えば、「就活セクハラ」など明らかなレイプや強制わいせつが、「セクハラ」というワードのもと矮小化されてしまうのは非常にもどかしい限り。

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「セクハラ罪っていう罪はない」、じゃあ作れば?

 2018年、財務省の福田淳一・前事務次官のセクハラ問題で、麻生太郎財務相が「セクハラ罪っていう罪はない」と発言し問題になりました。今年の春に出版された、角田由紀子 ・ 伊藤和子編著『脱セクシュアル・ハラスメント宣言 法制度と社会環境を変えるために』(かもがわ出版)では、ほとんどの寄稿者が麻生氏の「セクハラ罪っていう罪はない」を引用。それだけインパクトのある発言だったんですよね。30年経ったのに、たいして状況が良くなっていないではないか!という識者たちの焦りと課題意識が伝わります。

*この本の編著者であり、日本初のセクシュアル・ハラスメントを勝利に導いた、角田由紀子弁護士の会見動画 リンクを貼っておくので、よかったらご覧ください。

 実際に「セクハラ罪っていう罪はない」けれど、セクシュアル・ハラスメントは、刑法、民法、ストーカー規制法、迷惑条例防止法の処罰規定に該当する場合があります。また、罰則規定は無いものの(!)、「職場の」セクシュアル・ハラスメントであれば、男女雇用機会均等法などで、雇用主の措置義務や職員の注意義務が定められています。散らばってて、わかりにくいんだよね……。

 ちなみに、日本は2019年に「ILO 仕事の世界における暴力及びハラスメントの撤廃に関する条約」に賛成しています。この条約は職場での暴力やハラスメントを法律で禁じることを義務付け、必要に応じて加害者にも制裁を科す内容。被害者の職場復帰、カウンセリング、治療などの支援についても盛り込まれています。また、保護対象が幅広いため、就活生、ボランティア、求職者、フリーランス、アルバイトにも適用されます。均等法の「職場の」に当てはまらず、法の網から取りこぼされてきた人も救われる! 

 ただし、日本はILO条約に賛成したものの、いまだに批准はしていないんですよね。批准すると、国内法などの制度整備を進める必要があるところ、訴訟リスクを恐れる経済界から反発があったらしい。働く人の安全や権利より、雇う側の保身を選んだ形。この件に関しては、署名を立ち上げたり、どういう企業の誰が反対したのか明らかにしてもいいかもしれません。

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フェミサイドの裾野を支えるもの

 冒頭の『わたしたちのスリープオーバー』の収録日に、小田急線の殺傷事件があり、後日「幸せそうな女性を殺したかった」という供述が報道されました。私はヘイトについてそれなりに勉強していたのに、最近まで「女性差別」がヘイトの一種だ、自分の属性もヘイトの対象だっていう脳の回線がうっすらとしか繋がってなかったんですよね。でも、『ヘイトをとめるレッスン』という本を読んで、日常の中で「女性」という属性に対して向けられる、マイクロアグレッションやからかいやハラスメントが、レイプやフェミサイドなどの犯罪の裾野を支えているのだ、と遅ればせながら理解できました。

 ヘイトの構造を示す有名な図にヘイトピラミッドというものがあります。小さな偏見が、虐殺などの重大な犯罪を支えているという構造を可視化したものです。

これは以前、反ヘイトスピーチ基礎講座で配られたもの。

これは以前、反ヘイトスピーチ基礎講座で配られたもの。

©️11th principle:consent!

©️11th principle:consent!

 性犯罪やフェミサイドを防ぐにはどうしたらいい?という問いには、いろいろな答えがあると思いますが、個人レベルでできることのひとつに、「裾野にある小さな蔑視や差別を見逃さない」があるんじゃないかと思います。

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ハラスメントにも避難訓練が必要

 8月に「行動するためのバイスタンダー・ワークショップ〜困っている誰かのために、今すぐできる5つの方法〜」を受講しました。ハラスメントや性暴力の場に居合わせたとき、第三者として介入する方法を座学とロールプレイで学習。その場で本質的な解決は難しくても、「注意をそらす」「第三者に助けを求める」など、安全を守りながら被害を軽減する方法について教えてもらいました。バイスタンダー研修は、米国企業でセクハラ研修とセットで導入されたり、軍のプログラムで採用されたりしているそう。主催者の一人である濵田真里さんの「目の前でハラスメントや差別などが起きた時に、すぐに動けるようになるためには訓練が必要。防災訓練や避難訓練のように普段から練習しておくことで、いざという時に役立ちます」という言葉が印象的でした。

 「バイスタンダー」や「アクティブバイスタンダー」は、はあまり聞き慣れない言葉かもしれませんが、海外の性暴力&ハラスメント防止を徘徊していると、いかに大切さが説かれています。ワークショップ主催の濱田さんの経験談、具体的にイメージしやすい「#ActiveBystander=行動する傍観者」の動画、学生団体「Safe Campus」の取り組みの記事のリンクを貼っておきますね。

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オンラインハラスメント対策「Block Party」

 オンライン……とりわけTwitterでのハラスメントとなると、また勝手が違ってきます。エージェントスミス(マトリックスの悪役です)が、粘着力を増して無限に湧いてくるみたいな不気味なキリの無さに虚無感が募る。元気なときは言い返せるんだけどね。

 根本的な解決ではないかもしれないけれど、「Block Party」というツールを使うようになって、私はとっても気が楽になりました。簡単に言うと、自分で設定したフィルターで弾かれた相手のリプライを、一括ミュートしてブラウザで管理できるというものなのですが。無造作にTwitterを開いた時に、クソリプで気分を害したりダメージを受けるリスクが低下します。心の準備ができている時に(1日1回通知メールが来ます)、溜まったリプをチェックして、ブロックするなり言い返すなり、ミュートを解除するなり決めればいい。

これはメールで送られてくる画面のスクショ。家の外でなんか騒いでら〜みたいなイラストで、一旦距離を置けるのがすごくいい。

これはメールで送られてくる画面のスクショ。家の外でなんか騒いでら〜みたいなイラストで、一旦距離を置けるのがすごくいい。

 本当にひどいハラスメントを受けてしまったら、信頼できる人に代理でチェックを任せることができるし、ログも保存できます。現状では引用リツイートには対応していませんが、リプのダメージが和らぐだけでだいぶ違うよ。

yuka masuda 👩🏻‍💻
@yukamasuda
オンラインハラスメント対策ツールBlock Partyの使い方ガイドを日本語に翻訳しました! 日本語UIを用意することはまだ難しいけど、日本のアクティビストにもいつか使ってほしいと思っていたのでその第一歩になればいいな、Block PartyとTracyへの愛はここに書いたので読んでね
blog.blockpartyapp.com/p/9bd3f29c-0dd…
Block Partyの日本語使い方ガイドが出来ました! オンラインハラスメントに悩まされてきた創業者Tracy Chouの切実な思いから生まれたプロダクトがBlock Part blog.blockpartyapp.com
Block Party @blockpartyapp_
Block Partyはネット上での嫌がらせに悩まされてきた創業者Tracy Chouの切実な思いから生まれたオンラインハラスメント対策ツールです。声を上げることで日々嫌がらせを受ける日本のアクティビストの少しでも手助けになるよう、日本語での使い方ガイドを用意しました. https://t.co/iyUyyN3FFK
2021/06/08 14:24
88Retweet 151Likes
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 このところ「女友達に手紙を書く」という当初のコンセプトを忘れて、つい真面目な仕事用の塩文体になっていたので、少し緩めた口調を心がけてみました……。女友達にめっちゃセクハラの話をするていでお届けしました。

 冒頭でも書いたように、温かい出汁を飲むことにハマっています。時間があるときは、雅結寿のドリップ出汁(おこげを入れると美味しい)、サッと飲みたいときはUMAMIサプリ。でも、凝り性だから削ってない塊の節と、削り器が無性にほしくなってきています。また何かの境地に至ったら、報告します。それではまた!

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