フェムテックのモヤモヤを整理する

記録的猛暑をちょっと快適にするデリケートゾーンケアと、フェムテックのモヤモヤ整理。
長田杏奈 2024.06.02
誰でも

 ご無沙汰しております。今年の夏は記録的な猛暑との報道もあり、暑さの苦手な犬と寒さの苦手なインコと暮らしているうえに、暑がりの家族の中で多数決で負ける寒がりな私はいまから憂鬱です。じめつくシーズンにおすすめのスッとするデリケートゾーンウォッシュを紹介しつつ、「フェムテック」のモヤモヤについてまとまらない話を。

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台湾土産の定番・スースーするナプキン

 台湾の定番お土産にスースーするナプキンがあるのご存知ですか? 台湾に行く度にスーツケースいっぱい買い込むファンもいて、有名なのは、愛康衛生棉とMdmmd. (後宮をテーマにしたイラストのインパクト……)なのかな。寒い季節によもぎパッドが気持ちいいのと同様、蒸し暑い時期にスースー爽やかだと不快が紛れていいものだと最初に教えてくれたのは、この台湾土産でした。

 スッとするデリケートゾーンウォッシュ

 最近、同業者との「あれ良かったよ」トークで、頻出なのが『Waphyto』から期間限定発売中の「インティメイト フォーミングウォッシュ フレッシュミント」。泡で出てくるフォームタイプのデリケートゾーン用ウォッシュです。清涼・香気成分の和ハッカを軸に、5種の天然精油をブレンドしていてほどよいスーッと感がお風呂タイムの楽しみになっています。蒸れて不快だという感覚は1ミクロンもなかったのですが、スーッと洗い上がるとただ単に性器が清潔になってよかったね?以上の、心身が清められたようなスッキリ爽快さなのです。デリケートゾーンがスッとするとこんなに心地いいのか!の感動を美容仲間に熱心に説明し、こうしてニュースレターにも書いているわけですが(ちなみに、美容仲間は「ついでに顔と身体も洗っちゃう」って言ってました)。Waphytoは地産地消の循環に貢献するブランドで容器の回収もしているよ

 クールタイプのデリケーゾーンウォッシュの使用感について「スースーするんですか?」と尋ねたらすかさず、「スースーまではしません、スッとします」と言い替えてくれたのが、5月16日からCosme Kitchenでの取り扱いが始まった韓国のヴィーガンコスメブランド『AROMATICA(アロマティカ)』の担当者。オリーブヤングでヒットしたデリケートゾーンウォッシュが有名でベーシックなのは無香料ですが、夏場や月経中の蒸れが気になるシーンでは「ピュア&ソフトフェミニンウォッシュ カモミール&ティーツリー」がおすすめだそう。コスキチの説明文が塩だから、Qoo10のリンクを貼りました。トップに表示されてるのは無香料タイプだけど、下の方にスクロールするとカモ&ティーの紹介があります。日本だと薬事の関係で大っぴらに宣伝できなのかもしれないけど、Qoo10の解説には抗菌のエビデンスデータが記載されています。こういう情報、もっとほしいよね。

*AROMATICAはサステナビリティレポートを公開している環境保全に真剣な企業で、本国だと容器回収もしているよ。前はシートマスクも作ってたけど、環境のことを考えて生産をやめたらしい。

Qoo10のAROMATICA公式ページより引用

Qoo10のAROMATICA公式ページより引用

 猛暑予想の折、デリケートゾーンウォッシュ以外にも、例年にないくらいろんなブランドからボディスプレーやシャンプーなどの涼感アイテムが出ています。そこで思い出すのが、去年の夏にイラストレーターのクラーク詩織さんが話していた「日本はこんなに暑いのに、情報番組では猛暑を涼しく乗り切るコツの話ばかりしているのが怖い。イギリスでは猛暑や山火事のニュースを取り上げるときは、気候変動が原因だとインフォメーションを流すのに」とのエピソード。暑い日にデリケートゾーンをスッとさせて涼をとりつつ、根本原因の気候変動から目を逸らさないようにしたいですね。

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長い目で見たい。フェムテック周りのモヤモヤ

 そもそも今回久しぶりにニュースレターを書こうと思ったのは、先週末にフェルマータと女子栄養大学がコラボした「保健室BOX」のプレビューについてレポートしたかったからなのです。それで、話の枕にデリケートゾーンウォッシュの話をしようとしてつい長くなり……。加えて、フェムテックイベントについて直球で話す前に、今のフェムテックについて自分中にあるモニョモニョを一度エクスキューズもかねて明言しておきたかった。長く長くなってしまいました。

「快楽はタブーだけど、痛みは気のせい」な女性の健康課題とフェムテック

 「フェムテック」は女性の健康課題を解決するテクノロジーを表す造語で、私も愛用中の生理日トラッキングアプリ「Clue(クルー)」の共同創業者であるイダ・ティン氏が男性投資家に自社のサービスを説明する際に使ったことをきっかけに広まりました。ちなみに、ジェンダー・ペイン・ギャッププレジャーギャップって聞いたことありますか? 前者は女性の痛みが軽視されるという話で、後者はセックスが楽しくないシス女性がシス男性の4倍いたという話。他に「ドラッグ・ドーズ・ジェンダー・ギャップというのもあって、ひらたくいうと薬の裏に「成人(15歳以上)1回1錠)」と書いてあったとして、それは成人男性の治験データを基にしていているから、体格やホルモンバランスの違う女性には効かなかったり副作用があったりするよ、という話です。日本のフェミニストの定番ネタで、「バイアグラは半年で認可されたのに、ピルの認可には34年かかった」という実話エピソードもありますね。つまり、世界的に女性の健康課題は軽視されやすく、セクシャルプレジャーは抑圧される一方で、痛みは「気のせい・我慢・通過儀礼」などを当てがわれがちってことです。学問の世界では女性の身体や健康に関する研究には研究費が降りにくく、ビジネスの世界では女性の健康課題に投資が集まりにくい。そこへテクノロジーを用いて女性の健康課題を解決を志すスタートアップが、苦肉の策として生み出した言葉が「フェムテック」なのです。

フェムテックは資本主義の犬なのか

 よくある批判として、フェムテックが資本主義的だ!というのがあります。日本では経済産業省が旗を振っているわけで、わかる面もすごくある。文脈にもよりますが、いかにもジェンダー感覚が乏しそうな人が「フェムテックはブルーオーシャンだ!」「3.4兆円の損失!」「女性活躍!」って儲け話にわいてワキワキしてると、女性の身体を資本換算するな、と違和感や憤りを感じる場面も多々あります。当事者性があるので余計に。でも、そもそも「フェムテック」は女性の健康課題が軽視されるなか集まらない資本を集めるために編み出された、資本主義前提の言葉なんです。投資家が圧倒的に男性でスタートアップ界隈とかシリコンバレーとか意外なほどマッチョで(信じられない話もたくさん聞く)、女性の健康課題への関心も理解も共感も乏しいなかで。現状として、水を飲むにもお金がかかる社会でみんながなんらかの手段でお金を稼いで生活をしていて、そういうなかで女性の健康課題解決のための比較的新しいビジネス分野がピックアップされてことさらに「資本主義!」って批判されるとき、もう少し長い目で見守ってもいいんじゃないかなって思うんです。

 以前フェムテック系の女性起業家の記事が、フェミニストにネオリベ(新自由主義)フェミだと批判されているのを見かけたことがありました。言わんとすることはわからなくもなかった。しかし、例えばだけど、生理用品の大手二社の代表取締役は男性。トイレタリーケアを扱うような大手の化粧品の会社もほとんど代取は男性。そういう中で、リーン・インを彷彿とさせる文脈や経歴を背負っていたかもしれないけど、当事者意識を持って起業したてホヤホヤの女性のスモールビジネスがツッコミ対象になるのって、うーん……。

意外と古い月経カップの歴史

 ちなみに黎明期に「フェムテック」ブームに乗って、衛生用品やフェムケアプロダクトが紹介されると「テックじゃない」ってツッコミもよくありました。もっともではあるけど、テックが日本に入ってくるにあたっては規制の壁やタイムラグもあるし、「フェムテック」の旗のもとにタブーを超えて身体と向き合う機運があるなか、わけ知り顔の男性が語ってるとマンスプに感じたし、あなたのタブーや健康課題ではないからね……と煙たかった記憶があります。

 女性の間でも、使う使わない関係なく「こんなんあるんだ」って興味を持つ人もいる一方で、もともと無かったいらない怪しいものを売りつけられるような警戒心を持って批判的に見ている方も多いと感じました。タブー領域や抑圧されたセンシティブなテーマに踏み込むジャンルでもあるので、無理もない部分もあります。出始めは今よりも価格帯の選択肢が少なかったしね。月経カップが話題になってるときに、ジェンダーについて学んでるはずの専門家が「こんなもの身体に入れて大丈夫なの?」と警鐘を鳴らしていて、先入観で批判する前にちょっと調べたっていいのになって残念でした。トキシック症候群への心配ならタンポンでも同じだし、ちょっと検索すればすでに医師監修の記事や書籍の情報が出てくるタイミングではあったから。ちなみに、日本で初めてのナプキンが誕生したのは1961年で、それまでは脱脂綿を詰めたり当てた上から布を巻いたり、ぬか袋やボロ布も活用されていた。一方、月経カップが発明されたのは1937年でそれなりに歴史はあり、日本に目立つ形で入ってきたのが2、3年前という話なのです。

セクシャルウェルネスと異性愛規範

 フェムテックにも詳しい医師の方と話したとき、「フェムテックというとセクシャルプレジャーの話ばっかりで」と言われ、目が点になった。私の感覚では生理まわりの話が圧倒的に多く、妊娠・出産周りが次かなぐらいのイメージだったから。セクシャルプレジャーについて語る声が大きく感じるのは、その方のタブー意識が関係するのかもしれない……。女性のセクシャルプレジャーに対する抑圧のひどすぎる歴史を紐解くと、魔女狩りの話まで出てきちゃうので、話して話すぎることはないぐらいなんだけど……(『禁断の果実 女性の身体と性のタブー』という本がおすすめです)。

 生理中でも性交できるという挿入タイプのスポンジが、「生理中に気の進まない不衛生なセックスを強要されることを肯定している」的な趣旨の批判を受けたことがあります。特にセクシュアルプレジャーやセクシュアルウェルネスにまつわるプロダクトって、その人の属性やセックス観や経験によっても感じ方や考え方が異なります。各人がどう受け止めるかを尊重する前提としても、いわゆるシスヘテロ男性とシスヘテロ女性の保健体育的な意味でのスタンダードされる性交だけを前提にし過ぎてはいけないのかな〜と。世の中には挿入を伴わないセックスもあるし、ペニスを持たない者同士のセックスもあるので。性産業に従事する方に、生理中は海綿を熱湯消毒して栓にする(生理用品として作られているわけではないので衛生面に不安が残る)と聞いたこともあります。(生理中が有給扱いになるのがいちばんかもしれないけど、)現実として生理用品として作られた海綿の代替になるようなものが手に入れやすい価格であったら助かる人もいるかもしれません。自分のイメージするセックスとは異なるリアルや価値観がある。これはフェムテック全般に言えることですが、自分には不要なもっと言えば眉を顰めたくなるようなプロダクトやテックも、誰かの切実なニーズから生まれたアイテムなのかもしれないという想像力は無くさずにいたいですね。マイノリティはもちろん、プライバシーにも関わることだから「私にはこんなに必要なんです!」って表立って表明するのが難しい場合も多いにあるので。

 ちなみに、日本だと専門家の間でも生理中のセックスは感染症の原因になるから避けるべきというのが通説ですが、アメリカでは生理中のセックスが見直されていて「エンドルフィンが分泌されて頭痛がマシになる」等、推奨する専門家も出てきています。

 補足ですが、セクシャルプレジャーは必ずしも能動的で積極的でなくてよく、ある意味ではセックスとか関係ない世界でほっといてもらえる権利と安心もセクシャルプレジャー(そのものとまでは言えないが)の範疇。また「フェムテック」という名前に「フェム」が入っているから将来的には違うカテゴリとして言葉が生まれる可能性はありますが、ノンバイナリーやXジェンダー、トランス男性のニーズを考えて生まれたプロダクトもあります。差異を軽んじることなく包括的であることは可能。

政治とフェムテックと産む機械

 検定ビジネス・協会ビジネスってあって良い面と悪い面があると思うのですが、フェムテック関連の協会の理事が、フェムテック議連の政治家の支持者の娘という話を聞いたことがあり、政治とフェムテックのつながりについてもモヤモヤが多めです。保守系の政治家や行政が前のめりなのは、どっちも少子化を背景に働き手不足を見越して労働力としての女性を活用し、1人でも妊娠・出産する人を増やして子供の数を増やしたい目算もあるのかなと思ってしまう。ジェンダー感覚が化石で望まない妊娠・出産への対策はのらりくらりなのに、妊娠を後押しするようなフェムテックには見切り発車でもマッハでお金を出すイメージがあり……。子供を産む意思のある人、それをサポートする企業、経済的にバックアップする行政と、みんなにいいことなように見えて、現場での産む機械扱いに凹んだという話も聞くことがあります(詳細はボカす)。フェムテック領域を扱う人や企業には、ジェンダー感覚と人権尊重に努めてほしいです。

イスラエルのフェムテックとガザでの虐殺

 最後に、イスラエルによるパレスチナの人々に対するジェノサイドが続く中、フェムテックを語る上で、考えておきたい話を。フェムテック先進国であるイスラエルは、卵子凍結や体外受精などの生殖医療の普及率が高く、妊娠・出産にまつわる技術の高さで知られています。その背景には、多産を推奨するユダヤ教の教え、迫害され絶滅しかけた歴史の教訓から子孫を残そうという意識が高いことなどがあると言われています。国や政治と企業は=ではなく、中で働く人も同じ人でありさまざまな思いを抱えているというのは念頭に置きつつ、日本でフェムテックの看板を掲げている企業や団体は「それはそれ」としないで関わりについて一つひとつ真剣に向き合ってほしいなと思います。

  5月6日に国連女性期間が出したプレスリリース(以下自動翻訳)によれば、

  • ラファは現在、他に行くところのない70万人の女性と少女たちを受け入れている。回答した女性の93%が、自宅や避難先で安全でないと感じていると述べている。

  • 女性の80%以上が憂鬱感を訴え、66%が不眠に陥り、7​​0%以上が不安が増し悪夢に悩まされている。

  • 調査対象となった女性の半数以上(51%)は、戦争が始まって以来、緊急の治療を必要とする病状を抱えており、62%は必要な医療費を支払うことができない。

  • インタビューを受けた、現在妊娠中または10月7日以降に妊娠していた女性10人中6人以上が合併症 を報告しており、尿路感染症が95%、貧血が80%、早産が30%、高血圧性疾患が50%となっている。授乳中の母親がいる家庭では、72%が母乳育児や乳児の栄養ニーズを満たすのに課題があると報告している。

  • ラファの女性たちは、テントや過密な家庭で特に、介護や家事の負担が増す一方で、子どもたちの心身の健康を守るために奮闘している。女性と男性の回答者の10人中8人(79%)は、成人の家族や子どもたちへの精神的サポートを提供する責任は男性よりも母親のほうが大きいと答えた。

 との報告がなされています。ラファはガザ地区の最南端にあり多くの避難者がテント生活を強いられている地域。報告書に「ラファの人口は、戦争開始からわずか7か月で25万人から140万人へと5倍に膨れ上がり」とあるように、爆撃や飢餓に追い詰められた住民が集まり「最後の砦」とも言われる過密地帯です。また、この報告書は、国際社会がラファへの攻撃をやめるよう働きかけるなか、ネタニヤフ首相が「ラファに進む以外、選択肢はない」とラファからの退避を通告した5月6日に公開されました。文中で「イスラエルが地上侵攻を行えば」と仮定表現がされていますが、いまの時点ですでに地上侵攻は現実となってしまっています。5月24日に国連の一機関であるICJ(国際司法裁判所)がイスラエルに対し、ガザ地区南部のラファに対する攻撃をただちにやめるよう命令を下しましたが、5月26日にはラファの避難者たちのテントが並ぶキャンプが爆撃を受け、28日にはラファ中心部にイスラエルの戦車が到達したと報じられました。ガザにまつわるニュースで、フェムテックに関わる領域の報道リンクを貼りますが、状況は報じられた時期よりさらに悪化しているといって間違い無いでしょう。

 久しぶりの配信で、すごく長くなっちゃってごめんなさい。最後まで読んでくれた方ありがとうございます。みなさまどうか息災で。



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