私の加齢日記① キャメロンとドリューが加工無しで絶賛されて

加工無加工。貶すにしろ褒めるにしろ、見られて比べられるエイジングサインの話。
長田杏奈 2021.10.07
誰でも

 「なんか調子悪いな」、「ちょっと疲れてるな」が、少しずつ常態化してじわじわと「普段」に置き換わっていく。個人的には、この実感が「老化」なのかなと捉えています。シワが深くなった、シミができた、白髪が生えた、たるんだやつれたふくらんだ。美容業界の人間というだけではなく個人として、そういうエイジングの兆しを、恐怖や克服すべき対象ではなく当たり前の事象としてなるべくリラックスして付き合えたらいいなと願っています。その辺りの実感や世相観察の記録を、「私の加齢日記」として番号を振って、たまに送ることにします。今日は人気セレブがInstagramにアップした写真が無加工だと絶賛された話について。

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ニュースレター「なんかなんか通信」は、美容ライターの長田杏奈が、コスメや気になるトピックについてお届けする、Podcast「なんかなんかコスメ」連動のニュースレターです。週に3、4通を目安に、女友達に手紙を書く気持ちでしたためて投函します。

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キャメロンとドリューの「加工なし」が「絶賛」される世界線

 9月23日に、キャメロン・ディアスとドリュー・バリモアがInstagramにツーショット写真を投稿し話題に。

  どんな風に取り上げられたのか、Googleニュース検索でヒットした見出しを上から順に並べてみた。

キャメロン・ディアスとドリュー・バリモア、「加工なし」写真を堂々と投稿
Harper's BAZAAR
「素敵な年の重ね方」と反響。キャメロン・ディアスとドリュー・バリモアの写真が微笑ましい
HUFFPOST
キャメロン・ディアス&ドリュー・バリモア、加工無しのナチュラルな美しさ。
VOGUE JAPAN
素敵に年を重ねたドリュー・バリモアとキャメロン・ディアス、セルフィーに絶賛の声
MOVIE WALKER PRESS
キャメロン・ディアス、ボトックス手術で「顔がすごいヘンになった」過去を反省! ”自然なツーショット”を披露、ネットでは称賛の声
TVグルーヴ・ドット・コム

 私にも毎日のように海外セレブ記事を書いていた時期がありました。当時だったら間違いなく記事にしたし、きっと「加工なし」「素敵な年の重ね方」「ナチュラル」「絶賛の声」みたいなエンパワメント文脈+ネットの反響でまとめたと思う。きっとヤフーやスマニューに転載されてそれなりにPVも稼げたはず。なので記事として間違っているとは全く思わないけれど、「まだそこか」というモヤりもある。「まだそこか」の内訳は、だいたいこんな感じ。

・キャメロンは2016年に著書『THE LONGEVITY BOOK』​​にシワを修正しない表紙を採用。5年前からある種のステイトメントになっている。

・ドリューのInstagramは基本的に無加工が通常運転

・二人のツーショットは、「見て! 私たち加工してないよ!」という趣旨ではなく、「トークショー見てね」なのに、加工の有無に注目が集まってしまう

・日本でネームバリューがあって数字が取れる海外セレブは、未だに2000年代が強い

・例えば、ブラピとレオが無加工写真をあげても、みんな話題にしないどころか、気づきもしないのでは?(後日加筆:気づかれて記事になってました

  エイジングサインが現れると価値が下がる(人気としても、賃金としても)とされる業界で名を馳せた影響力のある人が、(たぶんプロが撮ったであろう小ぎれいな写真とはいえ)無加工に見える写真をSNSに載せることには意義がある。でも、そろそろ「絶賛」止まりではなく、社会や身の回りへの落とし込みを考える時期だと思う(加工=悪という単純な話でもないので、レタッチや加工についてはまた改めてどこかに書いてみたい)。

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 「写真の加工の有無」ではなく、キャメロンとドリューが告知したトーク番組の内容について取り上げた記事。「自分と見合わない相手に、無駄な時間を費やす必要はない」という前提で行動し、迅速かつ厳しい決断をする「hardballing」(ハードボーリング)の概念について紹介している。

"10代の少女の32%が、自身の体について自信がなくなったとき、インスタグラムがより悪い気分にさせたと答えている。「インスタグラムでの他人との比較は、若い女性の自分自身の見方や表現方法を変えてしまう」この結果は、過去数年間の社内調査でも一貫して同じだったという。"
 この記事は10代のメンタルに関する内部調査で、記事に出ているのは体型に関する話だけど、こういう状況の中で「大人が年齢なりの姿を見せる」アクションはある程度有効だと思う。アメリカの一部の学校ではFacebookの人が「SNSを真に受けないで」と説明する出張授業があるらしい。

 ちなみに大人の女性の無加工Instagram、私はジリアン・アンダーソン(Xファイルシリーズのスカリー捜査官で、セックスエデュケーションのセックスセラピスト)と、モデルのヘレナ・クリステンセンのInstagramが結構好きです。

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ルッキズムとエイジズムが悪魔合体したBefore→Afterストーリーに囲まれて

 「年をとった女である」「若くない女である」というだけで、日々何を考えどう過ごしているか、どんな履歴のがあってどういう努力を積み重ねているかの要素をすべてをスルーして、「ババア」くくりで堂々と侮蔑の対象としていいとされてきた時代が長過ぎた。もうとっくに通り過ぎたふにゃふにゃの地盤に居残って、その攻撃がまだ有効だと思い込んでしつこく他人を貶めている残念なジャッジ勢の言うことは、もはや真に受けなくていい。

 ただ長年のそういう侮蔑文脈を前提とした「シミやシワだらけで恋愛やら仕事やら人生全般やらが上手くいかなくてバカにされぞんざいに扱われドン引きされ陰口を叩かれた"おばさん"が、この商品・サービス・メソッドを利用したらあら不思議♪  Before地獄から、After薔薇色の人生に」(YouTubeの早口ナレーションで想像してね)的ストーリーの雑広告や雑コンテンツは、いまだに量産され、そこら中に溢れている。悪質ではあるし目障りだが、こういった表現は「ダメだこりゃ」ってわかりやすく、既にメインストリームからは追われつつあるのが幸い。

「年齢を重ねる」のはOKで「老ける」のはNG文脈

 その代わり最近は、「アンチエイジング」という言葉は使わずに、「年齢を重ねるのは素敵なことだけれど」と前置きした上で、「老けない」ためにできることを推す文脈が増えているなと感じる。大枠で年齢を重ねることを肯定するだけマシだけど、本音が見えにくい。どこからどこまでが「刷り込み&カモられ」で、どこからどこまでがアンティーク家具にワックスをかけるごとき「年を重ねる自分を慈しむ」話なのか、パッと見で見分けがつかなくなっている。

  複雑なのは、ユーザーレベルでは、「老けたくない!」というニーズまだまだ根強い(むしろ多数派に思える)点。そして、個人の中にもたいてい「なるべく若々しくいたい、見えたい」と「年齢を重ねる自分を肯定したい」という気持ちが共存している点。そのアンビバレンスを、矛盾だと否定したりバカにするのはまた違う気がする。ユーザーの「老けたくない!」をことさら「本音」として抽出して「老けたくないですよね?」商法をかますのは明らかに倫理に欠ける。一方で、加齢にまつわる不安や戸惑いや気後れを、十把一絡げに「若さにしがみつく」とまとめて、「解脱」した立ち位置から講釈垂れるのも根本的な解決になってないし、ある意味角度ちがいのミソジニーの発現だったりするので。わしは日々の実体験も消化しながら、自分にしっくりくる感覚を探っていきたいです。

 〜次回、勝手にシワ比べからの人生比べされた人気者の話に続く〜

おさだ(生後約43年と10ヶ月)より。

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