【号外】「女子校のプールの水になりたい」弁護士に性暴力被害者が伝えたいこと

かつてフリースクールで起きた性暴力事件の被害者や識者の方々に取材しました。読者の皆様に一緒に考えて頂けたら幸いです。
長田杏奈 2021.06.12
誰でも

「女子校のプールの水になりたい」弁護士たち

 2021年5月半ば、一部の弁護士らが長年に渡り「女子校のプールの水になりたい」というネタを繰り返し投稿していたことに注目が集まった。事情に疎い側からすると意味不明な「女子校のプールの水になりたい」は、2013年末頃から2017年にかけて、ネットスラングで「法クラ」と呼ばれる法律や法学に関わる人々の間で流行し、その後も断続的に投稿されていた。最近になって、Twitter上での法曹界のセクハラを問うムーブメントが巻き起こるなか、見かねた女性弁護士が「そんな冗談言ってたら性被害者は弁護士が怖くなるよ」と苦言を呈したところ、「閉鎖的なコミュニティの冗談交じりの発言に対して気持ち悪いと断じるのは、加害的だ」「内輪でキャッキャ楽しんでるところにずけずけ入ってきた」といった趣旨の反論が殺到。セクシャルハラスメントや性暴力に対応する事も多いであろう法曹界で、女子生徒を性的に消費するような表現がまかり通ったうえ、批判した同業者が返り討ちにあう異様な事態となった。そんな中、ひときわ物議を醸したのが、DJ飛鳥@夢がここからはじまるよ(@kiwi250、以下 DJ飛鳥)なるアカウントだ。DJ飛鳥は、2014年から2020年にかけて、30件以上「女子校のプールの水」「プールの水」ネタを投稿。「女子高生」「おっぱい」などのキーワードが含まれるつぶやきも繰り返していた。

「どすこいバリバリ女子高生! 女子高生! ばってんイケイケ女子大生! 女子大生!」

19:11-2013年6月15日

女子校のプールの水になりたい #結婚式のスピーチで言っちゃいけないこと
twitter

18:43-2014年11月13日

可愛い女子高生に「抱いて」と言い寄られても、弁護士の先生方は、きちんと諭して家に帰らせますよね?ー 家に帰らせようと思ったところその女子高生は記憶喪失でしたのでまずは自分の家に連れ帰ることにしました。 ask.fm/a/a7gmb78p
twitter

22:53-2014年1月30日

おっぱいとかプールの水とか焼きそばパンとか言っていた頃に戻りたい
twitter

0:48-2020年7月28日

  DJ飛鳥は、顔写真やプロフィールなどから社会福祉士資格を持つ弁護士である安井飛鳥氏のアカウントとして知られていた。一連の投稿に対して、内輪の冗談として軽く流せないのには理由がある。安井氏は、児童への悪質な性暴力事件を受けて設置された、フリースクール全国ネットワーク(以下、フリネット)による「子どもの人権擁護に関する調査検証委員会」の副委員長なのだ。

立ち遅れる「子どもの居場所の安全」対策と、報道止まりの相談窓口

 検証委員会設置のきっかけとなったのは、フリースクールの草分けとして知られるNPO法人東京シューレ(以下、東京シューレ)が運営していた「ログハウスシューレ」で起きた性暴力事件だ。当時10代だった女性Aさんは、2000年3月から約1年間に渡り、成人男性のスタッフから何度も性行為を強要され脅迫を受けた。その後Aさんは、当時の男性スタッフと東京シューレを相手取って提訴し、2019年7月3日に和解。報告会の席上で「不登校の子どもにとって、学校以外の居場所はとても大切。こうした子どもを守るための場所でも被害は起きるということを多くの人に知ってもらい、相談体制を整備するなど安全対策を強化してほしい」と訴えた。一方の東京シューレは、口外禁止規定を理由に「和解したこと意外は話せない」と沈黙。「子どもの居場所の安全が一番訴えたいこと」というAさんの願いに反し、何事もなかったように大規模イベントを主催し、子どもの権利や人権を大事にする理念を高らかに掲げ続ける。その組織防衛的な対応に批判の声が上がるのは、時間の問題だった。

  2019年11月20日、東京シューレはAさんの事案や性加害については直接触れず、「 安心・安全な子どもの居場所・フリースクールづくりに向けて」との声明を発表。続く11月23日には、東京シューレも加盟するフリネットの理事会で、性被害を食い止める電話窓口設置が可決された。ちなみに、朝日新聞で大きく報道されたこの窓口は、現在まで稼働している様子はない。2020年2月10日になって、ようやく東京シューレが「東京シューレにおける性被害について、及び、子ども等の人権、安心・安全を守るための取り組み」を公表。同年11月2日には、フリネットが「子どもの人権擁護に関する調査検証委員会」設置を発表した。遅きに失するとはいえ、ようやく「子どもの居場所の安全」に一歩を踏み出したかのように見えた。

#女子校プールの水になりたい弁護士に抗議します 

 しかし、子どもの人権擁護に関する調査検証を担うはずだった安井弁護士は、「女子校のプールの水になりたい」というような投稿をする人物であった。東京シューレの性暴力事件を機に、複雑性PTSDに悩まされている原告のAさんは、5月12日に安井氏の問題発言群に触れた際のことを「悪夢を見ているようで涙が出た」と振り返る。「まず、怖いと思いました。検証がどうなるか以前に、女子校に通う子どもを性的に搾取する冗談を言えてしまう感覚が恐ろしかった」と証言。一連の投稿には「子どもへの性加害は冗談にしていいものではないという感覚が欠如している」と指摘し、「Twitterは子どもたちも見ているわけですが、あの投稿が子どもの目に触れる可能性や、子どもの安全を脅かす冗談だということについて理解されているのでしょうか。当事者として、あの投稿を見たら弁護士に相談するのが怖くなる人もいるだろうなと感じます。また、こうした冗談が問題として扱われない空気は、東京シューレの性暴力が長く放置されていた体質と地続きなのです。こうした発言を冗談として放置することで、性暴力が起きやすく声を上げにくい社会の土壌を作っている自覚が無いことが問題だと感じています」と危惧を訴えた。

 自らも不登校経験を持つ社会福祉士のBさんは、安井氏による「女子校のプールの水になりたい」投稿について「安井氏は、児童分野に携わる弁護士であり、社会福祉士といった国家資格保持の専門職として、倫理綱領に従って行動する責務を負っています。また、教育や児童福祉に関わる人間がSNSで"女子校のプールの水になりたい"と表現することは、社会福祉・介護福祉士法で定められた"信用失墜行為の禁止"に抵触する恐れがあるうえ、男性支援者に向けられがちな"性的な下心があって従事している"といった偏見を助長する恐れもあります」と批判。「社会では"女子高生"という記号化のもと、性暴力やJKビジネスがはびこっているのが現実。個々の人格を無視して制服を着た"女子高生"として性的対象にされる恐ろしさは、男性にはわかりづらいのかもしれませんが、児童福祉に携わる者であればジョークでも口にできないはずです。

 フリースクールや不登校・ひきこもりの居場所施設には、学校や社会で傷つき排除されてきた子どもたちが集まります。団体や施設にもよりますが、一般的には男性利用者の比率が多く、どうしても"小さな男社会 "が生まれやすい。そんななか、男性利用者による下ネタや女性の容姿を評価・揶揄するような言動によって、少数派である女性利用者の心理的な安全性が損なわれ、深く傷ついたり施設の利用を諦めるケースが少なからず発生しています。また、女性がつらさを訴えたり改善を求めても、 "そういう発言っていやな気持になるよね "と表面的に受容されるものの、 "社会に参加する以上起こりうること "、 女性自身が"メンタルをコントロールする力をつけなさい "といった助言の形をとった二次加害や、 "意外とピュアだよね "と成熟度の問題にされるなどの矮小化が起きやすく、根本的な解決がなされないまま余計に心を痛めてしまう。私自身、支援の現場でこのような相談を何度も受けてきました。不登校・ひきこもり支援者のなかには、セクシャルハラスメント、とりわけ環境型セクハラに対する意識が低く、子どもたちの心理的安全性を損なう影響について無頓着な人が多過ぎるのです」(Bさん)。

 以前から安井弁護士の投稿を問題視していた支援者らが、安井氏や調査検証委員に任命したフリネットを批判。5月15日に「#女子校プールの水になりたい弁護士に抗議します 」というハッシュタグが生まれ、SNS上で安井氏を検証委員から外すことを求めるアクションが始まった。

 これを受け、安井弁護士は「とある方から個人を特定できる形で誹謗中傷被害を受けています」と反撃。自身の受けた批判に対し、「藁人形論法でデマを拡散」「ある種の正義が暴走した結果」と法的対応を含めて対応を検討していることを匂わせた。また、「なお近年インターネット上の誹謗中傷の法的責任が認められる裁判例も増加傾向にあります。正義心からの投稿が違法と判断されたものもあります。近時、拡散行為自体に違法性を認める裁判例も登場しその責任が厳しく問われる傾向にあります。インターネット上での社会運動にはくれぐれもご注意ください」と、リツイートについても牽制した。この投稿の後、一部の批判的投稿は投稿者によって削除された。しかし、違和感を訴える声は止まず、安井氏は「なお現在も当該投稿をもとに悪質な態様での引用、拡散、blog記事の拡散を続けられている方への法的措置への準備は続けていきます。元となる投稿が問題を認め削除に至っていることからこれらの引用、拡散、blog記事等の違法性はより厳しく問われうることに留意したうえで良識ある対応を求めます。」などの投稿を重ねた。

 一連の安井氏の反撃にショックを受けた原告のAさんは、「安井氏の怒りが私に向いているようで本当に怖いと感じているので、これ以上刺激したくないのが正直なところ」と前置きしながら、重い口を開く。「問題を指摘されても立ち止まることなく、誹謗中傷と混同して事態を矮小化。私たちに法的な知識が無いことにつけ込んで、法的措置の話を始めた点が見過ごせません。そもそも、フリネットの検証委員は、子どもへの性暴力をきっかけとした子どもへの人権侵害を検証するために設置されたもの。しかし、安井氏自身が子どもへの人権侵害に無自覚なままだと感じます。検証とは起きてしまった出来事を省みる作業です。指摘を受けた際に自身の言動を省みるのではなく、あげられた声を消すことに終始するような人物は、省みる作業をする委員にはふさわしくありません。安井さんには、ご自身の持つ力にいま以上に自覚的になり、その力を悪用しないよう自制する力を身につけてほしい。ジェンダーや性暴力についても学んでほしいと思っています」(Aさん)。

 安井氏の言動に首を傾げるのは、前出のBさんも同じ。「社会福祉士や弁護士などの専門家でも、配慮が至らない発言をすることはあります。ただ、支援に携わるプロは、自らの言動を省みて自分を戒める "自己覚知"と呼ばれる職業訓練を課されています。内省はおろか謝罪すらしない安井さんには、驚きを通り越して呆れるばかりです」(Bさん)。

ひっそりと発表された中間報告と「藁人形論法」

 安井氏の「女子校のプールの水になりたい」投稿を巡る応酬が続く5月17日、フリネットは、調査検証委員会中間報告を発表。報告には「本中間報告を加盟団体メーリングリストで報告し、さらにフリネットホームページでも公開して、現在の検討内容や方向性についての意見を募る。寄せられた意見をもとに最終報告書を調製し、6月27日のフリネット総会に向けて6月13日開催のフリネット理事会に提出する」とあるが、本来ならば広く意見を問われるべきところ、団体メーリングリストとホームページのみでひっそりと公開する姿勢に、内輪で解決を図る体質が透けて見えるといえよう。

 この中間報告の問題点をいちはやく指摘したのが、東京シューレの元スタッフで現在はフリースクールなどに関わる山下耕平さんだ。関係者が口をつぐむなか早くから問題意識を持って発信してきた山下さんは、自らのブログで「副委員長の安井飛鳥弁護士について、Twitter上での言動が問題だと指摘する声があり、当該事件の被害者の方からも、特定委員の人権感覚・倫理観が問題であるとして、検証委員会から外すよう要望されている。(中略)委員会設置の契機となった当該事件の被害者から表明されている意見に対し、フリースクール全国ネットワークは応答しているのだろうか。少なくとも、現時点において、ホームページに見解は示されていない。応答のないままに、中間報告を発表しているとすれば、それはなぜなのか」と疑問を呈した。また、東京シューレにおける性暴力事件については、別に立ち上がっている第三者委員会による検証作業が進められている最中であり、その検証報告を待たずに報告をまとめることは「事件を軽視していることになるのではないか」と指摘した。

 この山下さんの問題提起にTwitter上で抗議したのが、安井弁護士と同じく調査検証委員のメンバーで日本大学文理学部教授の末冨芳氏だ。末冨氏は原告や支援者の主張について「自分たちは傷つけられた被害者&支援者だから、加害者やその家族仲間や関連クラスタに何言ってもやってもいい、っていうのは間違えた正義です 藁人形論法もやめましょう 基本的な情報リテラシーをつけましょう」と批判。山下さんに対して、「この件については組織対応不要と判断しております。」、「断罪はフリネットに対してではなく誹謗中傷の被害者に対して、あまり結論急がれぬ方がということですね」と断じ、一対一での対話を求めた。ちなみに、末冨氏が主張する藁人形論法とは、一般的に「相手の主張を歪めて引用し、その歪められた主張に対して反論するという誤った論法」を示すとされている。本件において、藁人形論法を用いたのは誰なのか。

 取材に対し山下さんは、「検証委員会発足のきっかけとなった事件の被害者が、調査検証委員会のやり方に不安を抱き、委員の人選に疑問を感じている。正当性に自信があるなら、その見解を明らかにして説明を尽くすべき」と回答した。なお取材を進める中で、安井氏や末冨氏の主張に違和感を感じつつも、児童福祉業界内で権威がある二人に異論を唱えることで「潰される恐れがある」「仕事がやりにくくなるかもしれない」と怯える声が各所で見受けられたことを明記しておきたい。

「検証委員」のいびつなジェンダーバランス

 そもそも、「#女子校プールの水になりたい弁護士に抗議します」 以前から、フリネットの検証委員の正当性には疑問の声が上がっていた。部外者の目には、事件の端緒となった東京シューレと、フリネットは全くの別組織に見える。しかし、フリネットの事務所は東京シューレのビルの一角にあり、事件発覚後しばらく経った2020年09月12日までは東京シューレの代表である奥地圭子氏が理事長を務めていたという経緯もある。フリネットの単なるいち加盟団体とするには、東京シューレはあまりにも密接であり存在感が大きいのだ。

 加害当事者である団体に近い組織としてより客観的な検証が要されるなか、5人の委員のうちの2人は、フリネット理事長の中村尊氏と同 理事の前北海氏というフリネット関係者で占められる。また、安井弁護士は前北氏と仕事を共にする間柄であることから、支援者が「第三者とは言えない立場なのでは」と問い合わせたところ、フリネットからは「プロだから問題ない」との回答があったという。さらに、検証委員会は、女児への性暴力をきっかけに設立されたにも関わらず、メンバーのうち女性は5人中1人。前出の末冨芳氏のみであり、ジェンダーバランス的に見てもいびつな印象を受ける。

 「フリネットの対応に瑕疵が無かったかを検証するための委員に、代表理事や理事が入っているのは問題です。理事たちは本来"検証される側"であり、"検証する側"ではありません。例えば、いじめの加害者がいじめ検証の委員長や委員を務めるのがおかしいことは誰でもわかるはず。自分達の加害性に無自覚なまま、"公正な検証をするための条件を整えなくても問題ない "ともとれる形で検証を進めるのは、事件の矮小化であり二次加害です」(Aさん)。

説明されない2001年のセクハラ疑惑

 ログハウスシューレでの性暴力については、和解があったとはいえ未だ検証も再発防止策も不完全である。しかし、事件自体が知られていなかったり、「和解したから解決」と軽く受け止められることで、東京シューレは不登校界隈やマスコミのなかで権威として持ち上げられ、行政からの覚えも依然としてめでたい。また、2001年にログハウスシューレがひっそりと終了した背景に、セクハラや性加害があったのではという情報も複数寄せられている。この疑惑について、過去に元関係者が東京シューレ代表の奥地圭子氏に問い合わせたが、納得いく回答は得られていないという。

 5月25日にわいせつ教員に厳格に対処する新法が成立した背景には、性加害を繰り返す人材が児童生徒に近づくのを防ぐ目的がある。前出のBさんは、「学校法人格を持たない団体が多い民間のフリースクールでは、性善説に基づく安全対策を作っても隙が生じやすい」と危惧。子供や若者に性的な関心を持つ悪意ある人々から利用者を守るために、実効性ある対策を講じることがフリースクール全体に対する社会信頼につながるはずだと説く。

 事件の影響により生活に支障をきたすほどの複雑性PTSDに見舞われながらも、「子どもの居場所の安全が一番訴えたいこと。子どもが性被害にあわないように、もし被害にあったときに少しでもSOSを出しやすくなるように、SOSに気づけるようにしてほしい」と勇気を振り絞って問題提起したAさん。その思いに、大人たちはいつになったら耳を傾け真摯に対応できるのだろうか。

「NPO法人フリースクール全国ネットワークに対し要望書を提出しました」

原告は代理人を通じてフリネット宛に要望書を提出。その一部を公開した。
原告は代理人を通じてフリネット宛に要望書を提出。その一部を公開した。
原告が代理人を通じてフリネットに提出した要望書の内容の一部。
原告が代理人を通じてフリネットに提出した要望書の内容の一部。
原告が代理人を通じてフリネットに提出した要望書の内容の一部。全部で3通の書面が公開された。
原告が代理人を通じてフリネットに提出した要望書の内容の一部。全部で3通の書面が公開された。

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